Anthropic、Claude Scienceを発表——科学者向けAIワークベンチ、60以上の研究スキルを内蔵
- Anthropicは科学者向けAIワークベンチアプリ「Claude Science」を発表。現在Pro、Max、Team、Enterpriseユーザー向けにベータ版を公開中で、macOS/Linuxでのローカル利用、あるいはSSH/HPCログインノード経由のリモート利用に対応する。
- アプリには60以上の設定済みスキルとコネクタが内蔵され、ゲノミクス、シングルセル、プロテオミクス、構造生物学、ケモインフォマティクスをカバー。背後では数百から数千におよぶ専門データソース(UniProt、PDB、Ensemblなど)や、学術誌・プレプリントのリソースにつながっている。
- 自律的に計算タスクを起草し、ユーザーの同意を得たうえで自前のHPCクラスタやModalのクラウドGPUに投入できる。分析はGPU1個から数百個まで拡張可能で、生データは常にユーザー自身のシステム内にとどまる。
- 査読agentが内蔵されており、生成内容の引用が実在するか、数字が計算プロセスと一致するか、図表がそれを生成したコードと整合しているかを常時チェックし、問題を見つけると自動で修正する。
- すでに実例あり。Allen Instituteの研究者は、これまで2年かかっていた総説を約10本(うち複数は100ページ超)産出。UCSFのチームは生殖細胞系列変異の全パイプライン分析を従来の10分の1の時間に短縮し、これは研究室による独自検証を経ている。
科学者にもAIワークベンチができた
Anthropicは先日、科学者が普段使うツール、データベース、計算資源を単一の環境にまとめたAIワークベンチアプリ「Claude Science」を発表した。Pro、Max、Team、Enterpriseユーザー向けにベータ版を公開している。
これは自分のパソコンやサーバーに入れて使うアプリだ。平易な言葉でAIに科学的な問いを投げると、数十の専門ツールを動かしてデータを調べ、分析を回し、図を描き、原稿を書く——しかもすべての成果物はどうやって出てきたかを逆にたどれる。Jupyter Notebookのようにローカル(macOS/Linux)で使うこともできるし、SSHやHPCログインノード経由でリモートマシン上で使うこともできる。
科学者は普段どれだけ苦労しているのか
研究の日常には細々とした作業が大量にある。研究者は数十のデータベースを行き来しなければならず、それぞれのデータベースは独自のデータ構造(スキーマ)を持つ。扱うファイル形式にも専用の処理パイプラインやビューアが必要になることが多い。ツールも長いリストだ——PubMed、Jupyter、R、クラスタのターミナルと、次々に切り替えることになる。
これらのツールを揃え、データがその間を流れるようにするだけで、研究者の労力の大半が消える。Claude Scienceが目指すのは、こうした散らばった部品を1つの環境にまとめ、文献調査から原稿作成までの全工程をその中で完結させることだ。
1つの統括agent、その裏で働く専門家集団
対話の相手になるのは汎用の統括agentだ。60以上の設定済みスキルとコネクタを手にしており、専門領域の専門家サブagentを呼び出すことも、ユーザー自身が作った専用agentを呼び出すこともできる。彼らが手分けしてデータを調べ、分析を回し、結果を出す。
スマートフォンのアプリストアとショートカット機能を合わせたようなものだと考えるとよい。あるデータベースやソフトウェアを操作する必要があれば、統括agentにそれ用の「スキルパック」を装備させれば、そのツールの使い方を理解する。コネクタは、研究室で普段使っているツールを接続する役割を担う。
重要なのは、この連鎖の末端に専門のあら探し役、査読agent(reviewer agent)が控えていることだ。他のagentの成果物を見張り、逐一チェックし、問題があれば自分で手を入れて直す。
平易な言葉で質問
自動修正
この査読agentは、常時待機している同分野査読者のようなものだ。引用に本当に出典があるか、示された数字を元の計算までたどれるか、図表がそれを生み出したコードと合っているかを専任でチェックする。誤りを見つけると自分で直す——ユーザーに問題を丸投げすることはない。これは「AIが生成する内容がもっともらしく捏造しがちだ」という古くからの弱点に正面から向き合っている。
1つのagentがコンテンツ生成を担う「演者」、もう1つが正確性と引用の信頼性の確認を専任で担う「評者」——両者が役割分担しながら互いを牽制する。記者が原稿を書き、別の専任編集者が事実確認のために一文一文チェックするようなもので、どちらも相手に責任を丸投げしない。
生成された図はすべて、そのコードまで遡れる
研究そのものが図表への依存度が高いため、Claude Scienceは図や原稿を出力する際、それらを生成したコードも合わせて提示する。さらに研究専用の可視化フォーマットもネイティブにレンダリングできる——3Dタンパク質構造、ゲノムブラウザのトラック、化学構造など、専用ビューアを別途立ち上げる必要はない。
図を1枚生成すると、あわせて以下も付いてくる——その図を生み出した正確なコードと実行環境、どのように出てきたかを説明する一文、そして完全な対話ログ。これはつまり、数ヶ月後に振り返っても、当時何を入力し、結果をどう検証し、どう再現できるかがわかるということだ。
- 生成したコード
- 実行環境
- 一文の由来説明
- 完全な対話ログ
- すべての入力を確認できる
- いつでも検証できる
- 数ヶ月後でも再現できる
図の修正にも自分でコードをいじる必要はない。「グリッド線を消して」「縦軸を対数目盛にして」と平易な言葉で伝えれば、agentが自分で書いたそのコードを書き換えて再出力する。
AIが自らあなたのスパコンを操作、データは動かない
大規模な分析は骨が折れる。タンパク質を1つ折りたたむ、膨大なデータセットでゲノムパイプラインを1本走らせる——研究者はしばしば本来の科学的な問いから手を離し、計算タスクの設定、クラスタでの順番待ち、成否の監視、結果の回収に時間を取られる。Claude Scienceはこの一連の作業を丸ごと引き受ける。
まず計画を起草し、新しい資源を使う前にユーザーに確認を取る。ユーザーはあらゆる決定を確認でき、撤回もできる。同意を得てから、タスクを書き上げて研究室が普段使っている計算資源に投入する——SSH経由の自前HPCクラスタか、あるいはModalアカウントでオンデマンド利用するクラウドGPUだ。規模はGPU1個から数百個まで弾力的に拡張できる。
確認・撤回が可能
/ Modal GPU
返す
この一連の処理はすべて研究室自身のインフラ上で動く——自分のノートパソコン、Linuxマシン、あるいはHPCのログインノードだ。だから大規模で機微なデータセットが本来存在するシステムから外に出ることは一切なく、各ステップではその分析に必要な最小限の文脈だけがClaudeに渡される。計算はAIによる調整に外注できても、生データは動かない。
これらのagentは文脈をメモリに保持したまま1つのセッション内で作業するため、膨大なデータセットであっても読み込みは一度きりで済む。タスクが走っている間も、あの査読agentが同時に成果物をチェックし、誤った引用、たどれない数字、コードと食い違う図表を洗い出して、走りながら自己修正する。
タスクの途中で、並行する分岐を複製し、別の手法でそれぞれ走らせることができる。両者は互いに影響せず、元の対話スレッドも失われない。同じ文書を2つのバージョンとして別々に保存し、それぞれ編集するようなもので、片方を失敗させても元の原稿は無事だ。
最初から専門家仕様:各種データベースと専門モデルが接続済み
科学知識は数百から数千の専門ソースに散らばっている。生物学だけを見ても、関連データはUniProt、PDB、Ensembl、Reactome、ClinVar、ChEMBL、GEOといったリソースに分散しており、それぞれ独自の構造とクエリ言語を持つ。加えて学術誌、プレプリントサーバー、分野特化型のオープンソースモデルもある。平易な言葉で1つの質問を投げれば、専門家agentがこれらのソースを横断して調べ、統合してくれる——1つずつ手探りする必要はない。
さらにNVIDIAのBioNeMo Agent Toolkitとも接続しており、BioNeMo内の生命科学モデルやライブラリ——Evo 2、Boltz-2、OpenFold3を含む——にネイティブにつながる。科学者がすでに信頼しているモデル、データセット、パイプラインも合わせて接続できる。どんなパイプラインでも再利用可能なスキルとして保存でき、よく使うツールはコネクタで接続でき、以降のセッションでは自動的に引き継がれる。AIを使うために、これまで信頼してきたツールチェーンを手放す必要はない。
3つの研究室がすでに何を実現したか
この数ヶ月、研究者たちはベータ版でシングルセルRNAシーケンス分析、CRISPRスクリーニング設計、タンパク質構造予測、ケモインフォマティクスなどの作業を行ってきた。3つの事例が導入効果を特によく示している。
| 研究室 | 何をしたか | 定量的な結果 |
|---|---|---|
| Manifold Bio | 組織標的薬のターゲットをエンドツーエンドでスクリーニング。表面発現、生体内輸送、安全性を1つずつ評価し、自社の独自データから学習した基準で順位付け | 一度で全パイプラインを通過。汎用コーディングアシスタントとの決定的な違いは、自ら正しいデータを見つけ、過去のプロジェクト経験を踏まえて判断を下せる点 |
| Allen Institute 神経科学者 Jérôme Lecoq氏 | 約20の自作スキルからなるマルチagent「計算型総説テンプレート」を構築。サブagentが数千本の論文を読み、核心的な論点と重要な定量的結論を抽出して証拠データベースに蓄積、その後セクションごとに執筆。各セクションは専属のサブagentが担当し、actor-critic方式でペアを組みながら書きつつ検証 | これまで総説1本の執筆に最大2年かかっていたが、現在は約10本を産出、うち複数は100ページを超える。引用はすべて査読agentによる検証済み |
| UCSF脳腫瘍センター 疫学准教授 Stephen Francis氏 | 神経膠腫の分子疫学を研究——数千個の小効果生殖細胞系列変異がどう積み重なって個人の易罹患性を形作るかを調べ、複数の手法を横断する包括的な生殖細胞系列分析を実施 | 所要時間が約10分の1に短縮。チームが結果を独自に再確認し、速さと信頼性の両方を確認済み |
今、誰がどう使えるのか
Claude Scienceアプリは現在ベータ版として、macOSとLinux上でPro、Max、Team、Enterpriseユーザー向けに公開されている。TeamとEnterpriseユーザーは管理者による有効化が必要。Anthropicによれば、早期公開の狙いは科学者に実際の課題で先に使ってもらい、磨き込みへのフィードバックを得ることだという。
学術機関や非営利の研究機関で活動する研究室向けには、割引価格のTeamプランの席も用意されている。
科学プロジェクト向けの助成金もある(詳細を開く)
Anthropicは最大50件のClaude Science「AI for Science」プロジェクトを支援し、各プロジェクトに最大3万ドルのクレジットを提供する。Modalも採択プロジェクトに最大2千ドルの計算資源を追加提供する。対象分野は生物学・生物医学研究を優先する。申請受付は2026年7月15日まで、7月31日までに通知、プロジェクト期間は2026年9月1日から12月1日まで。
すべての成果物には、それがどう生成されたかを検証可能な記録が付いてくる。だからこそ結果を検証し、再現できる。 Anthropic、「Claude Science, an AI workbench for scientists」
研究がツールてんこ盛りの個別対応 → 1つのAIワークベンチに集約、しかもあら探し役の査読agent付き
Anthropicが発表したClaude Science。科学者が一言尋ねれば、AIがデータ調査・スパコン操作・論文原稿執筆まで代行し、引用と数字も自己チェック。しかも生データは手元から出ない——1枚の図解でまとめて読む。
↓ 1枚で読み切る・動く図が1つあります
Claude Scienceは、Anthropicが先日発表したアプリで、科学者自身のパソコンやサーバーに入れて使う。平易な言葉で1つの科学的な質問を投げると、数十種類の専門ツールが動き出し、データ調査、分析実行、作図、論文原稿の執筆を代行してくれる。なぜこれが必要なのか——まず科学者の今の日常がどれだけ煩雑かを見てみよう。
✘ だがそれぞれが別々の場所にあり、勝手が違う——人間がその間を運搬する役目を担うことになる
数十のデータベースはそれぞれ独自のデータ構造を持ち、多くのファイル形式には専用の処理フローとビューアが必要。研究者は一日中これらのツールを行き来し、それらを揃えてデータをスムーズに流すだけで大量の労力が消える。
変わったのは——これまで散らばっていたツール、計算資源、人手による確認作業が、対話できる1つのAIワークベンチに集約されたことだ。AIが自ら計算タスクを起草し、ユーザーの同意を得たうえで、研究室自前のスパコン(HPC、高性能計算クラスタ)やオンデマンドのクラウドGPU(大規模計算専用チップ)に投入して実行する。
- 数十のデータベース、PubMed、Jupyter、R、クラスタターミナルを人手で行き来
- 計算資源は自分で設定し、順番を待ち、成否を見張り、結果を回収する必要があった
- AIが出した引用や数字は自分で1つずつ確認する必要があった
- 1つの統括AIが一括調整、一言で分業開始
- AIが計算タスクを起草し、ユーザーが了承すれば自動でスパコンに投入
- もう1つのAIが走りながら引用・数字・図表を検証、誤りを見つけたら自動修正
作業をAIに任せると、すぐに2つの古典的な疑問が浮かぶ。計算資源を勝手に操作して機微なデータを外部に漏らさないか?生成される引用や数字は捏造ではないか?次の図で、この2つの問いにどう答えているかを見てみよう。
対話相手はただ1つの「統括agent」(全体を差配するAI)。その裏で専門家集団を招集して分業させる。末端には「査読agent」(他のAIが誤っていないかだけを専任で見張るAI)が控え、逐一チェックし、誤りを見つければ自分で修正する。
公式が出しているのは「10倍速い」といった言い方で、普通の人には実感が湧かない。同じ作業に、従来のやり方と新しいやり方でそれぞれどれだけ時間がかかるかに換算すると——
なんでこんなに疲れるんだ?
- × 数十のDB
それぞれ勝手が違う - × PubMed・R・Jupyter
行ったり来たり - × 計算資源は
自分で順番待ち・監視
脳腫瘍リスクを高める?
データが漏れたりしない?
必要な分だけしか渡さない
捏造だったりしない?
誤りはその場で直す
時間は9割減った
もう少し考えられる
