Memories.aiがO-MARCを発表——動画と音声を同時処理するAIを、速く・省メモリに・より正確に動かす方法
- 映像を見ながら音声も聞き取れるAIは、現在の動画理解の最前線にある。だが1秒の動画だけで大量のトークンを消費してしまう。複数カメラを連続稼働させるコストの高さが、この種のモデルが今なお実験室にとどまっている主な理由だ。
- Memories.aiのO-MARCがやっているのは「賢く捨てる」ことだ。質問に関係する重要な画面フレームと音声アンカーだけを残し、残りはノイズとして捨てる。これにより推論は34.6%高速化(1.53倍)し、メモリは34.7%削減される。
- 圧縮は通常、精度を犠牲にして速度を得るものだが、この手法は「同じモデルにオープンブック方式とクローズドブック方式で1回ずつ解かせる」蒸留学習によって精度を取り戻す。4つのテストの平均スコアは45.8で、圧縮なしの44.1を上回った。
- 圧縮コンポーネントのOMACは学習不要で、すでに運用中のモデルの前段に組み込むだけで使える。より高い精度を得たい場合は、続けて強化学習を1ラウンド行う必要がある。
- あわせて公開されたUGC-AVQAは、動画1000本、設問4816問を収録。候補問題はすべて事前に音声トラックを削除して解かせ、それでもAIが正解できたものは一律除外。残ったのは、聞こえていなければ解けない問題だけだ。
Memories.aiは7月8日、O-MARCと呼ばれる研究成果を公開した。あわせて論文は5月26日にすでにarXivに掲載されている。これが解決するのは、非常に具体的な課題だ——動画と音声を同時処理するAIを、どうすれば速く・省リソースに・より正確に動かせるか。
現在の視聴覚AIが行き詰まる2つの点
一、高コストで遅すぎる——計算資源がまるで足りない
モデルは動画を直接「見て」いるわけではない。動画がモデルに入力される前に、一連のトークンへと分解される。各フレームは多数のブロックに切り分けられ、1ブロックが1トークンになる。音声も時間軸に沿って一連のトークンへ切り分けられる。そこにユーザーが尋ねた質問文が加わる。この3つを1本の長いシーケンスにつなぎ合わせ、モデルが最初から最後まで読み通す。
シーケンスが長いほど、VRAM(GPUメモリ)と処理時間のコストは高くなる。しかも画面と音声はどちらも特にトークンを消費するモダリティで、両者を重ねると、シーケンス長は単純に倍増する。
概念図(本サイト作成)。濃いオレンジのブロックが画面トークン、薄いブロックが音声トークン、濃いグレーがテキストです。32フレームの短い動画でも数千トークンに達します。
論文中の実測値では、1秒に1フレームのみ、1本あたり最大32フレームに抑えた条件でも、長尺動画データセットのWorldSenseで1本(64フレーム構成)を処理するのに3.81秒かかり、VRAMを24.2GB消費する。1枚のGPUで1系統回すだけで、ほぼ限界に達してしまう。
この2つの数値にカメラの台数と稼働時間を掛け合わせれば、監視センターや工場のラインのように24時間体制で複数系統の映像を回し続ける現場において、コストが受け入れがたいほど高くなる理由がわかる。
二、見せかけの精度——現行のテストではまるで測れない
画面と音声を同時に理解できると謳う2つの動画解析システムを評価するとしよう。既存の音声・映像テストセットで走らせた結果、Aが70点、Bが60点だったとする。ここで疑問が生じる。Aのその70点のうち、どれだけが「見るだけ」で得られたものなのか。
大半の音声・映像テストセットはこの疑問に答えられない。設問のかなりの部分は画面だけを見ても正解できてしまう。交通事故現場、人が転倒する場面、機械から煙が上がる場面などは、音を聞かなくても判別できる。音声をまったく使わないモデルでも良い成績を出せてしまうため、「音声と映像の統合理解」という能力は、評価の次元では曖昧なまま放置されてきた。
英語がわかる人を採用したいのに、出題した試験は全問選択式で、4つの選択肢のうち3つが明らかに不自然な文になっているようなものだ。英語がわからない人でも消去法で80点は取れてしまう。この試験では、本当に測りたい能力を測ることはできない。
こうしたシステムの導入を検討する側にとっては、どのベンダーが本当に音声信号を統合しているのか、どのベンダーが音声を単なる飾りにしているだけなのかを見分ける確実な手段がないということを意味する。業界には「本当に聞き取れているか」を検証できる試験問題が欠けていた。
Memories.aiの共同創業者であるShawn ShenとBen Zhouは、いずれもMetaの出身だ。2人は以前、MetaのRay-Banスマートグラスに搭載されたAIシステムを専門に担当していたが、開発を進めるうちに避けて通れない問題に気づいた。眼鏡はずっと録画し続けているのに、録画したものをユーザーがまったく呼び出せない——AIは「見た」はずなのに「覚えていない」のだ。この課題こそが、2人が2024年に退職して起業し、Memories.aiを創業した動機だった。動画を検索・想起可能なものへと変える研究に特化した会社であり、O-MARCはその延長線上にある最新の一歩だ。
OMACはどうやって残すべき画面と音声を選び出すのか
まず公式が公開したこのアニメーションを見てほしい。37秒で3つのことを説明している。
アニメーション内には3つの名称が登場し、関係を混同しやすいため、ここで先にそれぞれが何を指すのかを整理しておく。
よくある圧縮手法は一律削減だ。すべての画面フレームを一律にダウンサンプリングし、すべての音声を一律にスパース化する。この方法の問題は、画面には重複した内容が大量に含まれる一方(同じ背景が数十フレームも続く)、音声のほうはごく短い一瞬だけが決定的な意味を持つ場合があることだ。一律に削ってしまうと、重複した背景と重要な手がかりが一緒に失われてしまう。
OMACは4つのステップで重要部分を選び出す。
1フレーム内の全トークンの平均を取り、そのフレームの「概要」を得る。それを質問文と比較して類似度を算出し、スコアの高いものを残す。ただしスコアだけでなく時間的なカバレッジも考慮し、残すフレームが動画冒頭の数秒に偏って集中しないようにしている。
各トークンとそのフレームの平均値との差を計算し、差が大きいものを残す。平均値とほぼ同じものは大半が重複した背景であり、平均値から外れているものこそ、そのフレームで実際に起きている出来事である可能性が高い。残されたこれらのトークンに加え、それらを加重集約した「フレームメモリトークン」を1、2個添えて、元の時間位置に戻す。
音声は重要度でスコアを付け、スコアの高いものをいくつかアンカーとして残す。近傍で捨てられたトークンは、統合の重みに応じて最も近いアンカーへ組み込まれる。そのためアンカー1つには、それ自体だけでなく周囲の短い区間の情報も含まれることになり、音声の指示や環境音といった手がかりが丸ごと消えてしまうことはない。
画面を圧縮し終えた後、各時間帯に残る画面情報の量は一様ではない。多くのフレームとトークンが残る瞬間もあれば、ほとんど残らない瞬間もある。OMACはこの疎密を「その時間帯が重要かどうか」を示すシグナルとみなし、逆に音声の割り当てに反映させる。画面が多く残った時間帯には聴覚の配分を増やし、画面が疎な時間帯はより強く圧縮する。総額は変わらず、あくまで再配分するだけだ。
この第4ステップこそがこの設計の中で最も重要な一手であり、他の圧縮手法との最大の違いでもある。論文では「どちらがどちらを導くか」という3通りのやり方を比較する対照実験を専門に行っている。
同じ「視覚が音声を導く」やり方でも、視覚メモリを先にきれいに選別してから配分に使うほうが、生の視覚信号でそのまま導く場合より1.7ポイント高い。理由は、生の画面情報には重複した背景が大量に混ざっており、それを使ってどの音声区間が重要かを判断すると、ノイズも一緒に入り込んでしまうからだ。
まだ選別されていない画面情報を使ってどの音声区間が重要かを判断すると、重複した背景も判断に加わってしまう。
まず質問に基づいて残すべき画面を選び出し、それからどの時刻に多く残っているかを見る。この時点での疎密は、すでに選別を経た判断結果になっている。
概念図(本サイト作成)。上段のブロックは選別後に残った画面フレーム、下段は対応する時間帯に配分された音声の割り当てです。
学習不要、組み込むだけで使える
OMACのこの部分はモデル本体を変更せず、再学習も必要としない。プラグインとしてすでに運用中のモデルの前段に組み込むだけで効果を発揮する。すでに全モーダルモデルを稼働させているチームにとっては、学習パイプラインを作り直す必要も、リリースフローをもう一度通す必要もないということを意味する。
速度は上げても賢さは落とさない——圧縮後に精度がむしろ上がる仕組み
圧縮には通常、精度という代償が伴う。モデルはもともと「素材が揃った」条件下で学習されているため、いきなり3割しか与えられなくなると適応できないからだ。O-MARCの学習段階は、まさにこの点を補うために用意されている。
ポイントは、教師と生徒が同一のモデルであり、同じ時点の同じパラメータだという点だ。同じ問題に対して2回答える——1回は全量の素材を見て、もう1回は圧縮後の素材を見て。この2回のスコア差が大きいほど、その問題が圧縮によってどれだけひどく損なわれたかを示している。
同じ生徒が同じ問題を2回解く。1回はオープンブック、もう1回はクローズドブックだ。クローズドブックで最も点数が落ちた問題を選んで重点的に練習させる。ただし前提として、その問題はもともと正解できる見込みがあったものに限る。もとから全く解けない問題は、クローズドブックでどれだけ点数が落ちても重点練習の対象にはしない。
具体的な方法は、強化学習における「アドバンテージ値」を変更することだ。アドバンテージ値とは、モデルが1回答えるたびに得られるスコアで、同じバッチ内の他の回答よりどれだけ優れているかを測るものであり、モデルはこれをもとにどの方向へ調整すべきかを決める。O-MARCは「アドバンテージ値が正であること」と「圧縮に弱い度合い」という2つの数値を掛け合わせて追加の重みを算出し、調整可能な強度係数に従ってアドバンテージ値に加算し直す。両方の条件を同時に満たすサンプルだけが、明確に重みが大きくなる。
教師ブランチはこのアドバンテージ値を書き換えることで嗜好を生徒に伝える。トークン単位の確率でアライメントを取る方式ではなく、モデルを「圧縮後も安定して答えられる」挙動へと押し進める。学習全体で使ったのはわずか3000件のサンプルと、96GBのVRAMを搭載したGPU4枚だけだった。
最終的な成績
| 構成 | 4項目テスト平均 | 圧縮なしとの差 |
|---|---|---|
| 圧縮なし、全トークン | 44.1 | — |
| OmniZip(既存の圧縮手法) | 41.0 | −3.1 |
| OMAC(学習不要のプラグイン) | 42.8 | −1.3 |
| O-MARC(OMAC + 学習) | 45.8 | +1.7 |
ベースモデルはQwen2.5-Omni-3B、保持率30%・32フレームの条件。4つのテストはそれぞれDailyOmni(日常動画の音声・映像理解)、UGC-AVQA(今回新たに公開されたもの)、OmniVideoBench(長尺動画推論)、WorldSense(実世界の総合的知覚)。45.8はこの4項目の平均で、内訳を見るとUGC-AVQAの伸びが最も大きく、他の3項目は圧縮なしの場合とほぼ同水準かやや低い。効率に関する数値は別の実験によるもので、条件は64フレームの長尺動画である。
圧縮を強めるほど、この手法の優位性は際立ってくる。UGC-AVQAで70%を圧縮した場合、OMACはなお49.2点を維持するのに対し、OmniZipは47.1点まで落ち込む。残す量が少なくなるほど、「正しいものを残す」ことの重要性が増す。
UGC-AVQA——「音声トラックを削除してもう一度解かせる」でふるい分けたテスト問題
モデルが本当に「聞いている」ことを証明するには、まず「聞かなければ解けない」試験問題が必要になる。このテストセットのふるい分け方法は、たった1ステップだ。
各候補問題について、まず動画の音声トラックを丸ごと削除し、Gemini-3.1-Flashに画面だけを見て解かせる。正解できた問題はすべて除外し、解けなかった問題だけを残す。
残った問題は、画面から答えを直接読み取ることが不可能なものだ。このテストセットは、ユーザーが投稿した短尺動画1000本、質疑応答ペア4816問を収録している。設問は4種類に分かれる——音声・映像イベントの進行、シーンや時間の転換、シーン間の対応付け、細粒度の比較。すべての動画には人手による詳細な「全モーダル記述」が付与されており、画面内の人物・物体、シーン切り替え、動作、音声イベント、時間関係を網羅している。候補問題と生成された学習用問題はそれぞれ30%を抽出し、訓練を受けたアノテーターがレビュー・修正した。
設問の中身
実際の設問を4つ見ればわかりやすい。
エアフライヤーが回り始めたとき、話し声はどう変化したか。
正解:驚きを見せた
教師が音声で初めて非公式な呼称を使わないよう注意したとき、彼が壁に書いていたのはどの人称代名詞か。
正解:vosotros(スペイン語の非公式な「あなたたち」)
キーボードのバックライトの色は、この人物が最初に質問した場面とその後の解説場面の間でどう変化したか。
正解:青から紫へ
カメラがその箱に切り替わる直前に鳴ったのは、何の音か。
正解:女性が質問をしている
3問目は色を尋ねる問題で、一見すると純粋に視覚的だ。だが「最初に質問した」場面と「後で解説した」場面という2つの時点は、音声を聞かなければ特定できない。この設問が試しているのは画面と音声が対応付けられるかどうかであり、画面だけ、あるいは音声だけでは答えが出せない。
モデルの成績はどうだったか。9つのモデルで試した結果、最高スコアはGemini-3.1-proの69.1点、オープンソース陣営でパラメータ数が最大のQwen3-Omni-30B-A3Bは65.0点、今回のベースモデルとして使われたQwen2.5-Omni-3Bはわずか49.0点だった。大半のオープンソースモデルが最も苦手とするカテゴリは「シーン間の音声・映像対応付け」、つまり上記のvosotros問題のタイプで、Qwen3-Omni-30B-A3Bですらこのカテゴリでは60.9点にとどまった。
| モデル | UGC-AVQA平均点 |
|---|---|
| Gemini-3.1-pro | 69.1 |
| Gemini-3.1-flash-lite | 67.1 |
| Qwen3-Omni-30B-A3B | 65.0 |
| Gemma-4-E4B-it | 59.7 |
| Gemma-3n-E4B-it | 54.6 |
| Qwen2.5-Omni-7B | 54.2 |
| Gemma-3n-E2B-it | 53.0 |
| Qwen2.5-Omni-3B(今回のベースモデル) | 49.0 |
| Gemma-4-E2B-it | 45.6 |
データは論文Table 2による。ランキングでスコアを付けているのはGemini-3.1-proとflash-liteだが、設問をふるい分ける際に採点役を務めたのはGemini-3.1-Flashであり、同一モデルではない。また、消音状態で不正解になったことは、その設問が画面だけでは解決できないことを示すが、設問自体の曖昧さ、誤答選択肢の設計不良、モデルの能力不足も不正解の原因になり得るため、こうした設問も同様に残ってしまう。
節約できたこの3分の1は、どんな場面に活かせるか
レイテンシとVRAMをそれぞれ3分の1削減できるということは、同じ1台のマシンでより多くのカメラを接続し、より多くのリアルタイム映像ストリームを処理できるということを直接意味する。
セキュリティセンター、工場のライン、店舗、スマートビルなど、数十系統のリアルタイム映像を同時に見る必要がある現場では、コストが下がって初めて全モーダルモデルの導入が現実的になる。
設備の異音、助けを呼ぶ声、画面に映る前に先に聞こえてくる物音——こうした事象は見るだけでは検知できず、聞くことと見ることを組み合わせる必要がある。しかもモデルが本当に聞き取れていることを保証しなければならない。
大量の動画からメタデータを抽出する際、画面に何が映っているかだけでなく、音声で何が起きているかもタグ付けできる。タグの精度は、その後の検索品質に直結する。
イベントを検知したら警報・転送・タグ付け・エスカレーションを行う自動化チェーンにおいて、1.53倍の高速化は、これまで「遅すぎてリアルタイムに使えなかった」場面を実用可能に変える。
もう一つ——教育・研修動画
講義動画の要点は、解説している発話の中にあることが多い。画面に映っているのはスライド1枚だけで、本当の情報は講師の言葉の中にある。内容理解、品質評価、要点抽出を行うには、本物の音声・映像統合推論が不可欠であり、画面を見るだけでは何も抽出できない。
上記の用途例はMemories.ai研究ページに記載された応用構想である。論文自体は実運用での展開実験を行っておらず、すべての結果はQwen2.5-OmniおよびQwen3-Omni上で実施したベンチマークテストである。
現時点で手に入るもの、まだ手に入らないもの
自分で試してみたい場合に向けて、確認済みの実際の状況をまとめる。
また、このデータセットが公開しているのは動画の元リンクと注釈であり、動画ファイル自体を再配布するものではない。著者は論文の限界事項の節で、プラットフォーム側のコンテンツ変更に伴い、一部のデータは時間の経過とともに無効化されると明記している。これは外部リンクに依存するすべての短尺動画データセットに共通する弱点だ。
これらの結果は、音声・映像圧縮を単なる推論高速化の手段としてのみ扱うべきではないことを示している。それは同時に学習可能な条件でもあり、より頑健で効率的な全モーダル推論へとつながるものだ。 論文の結論部より
この研究の着地点は、「賢く捨てる」ことを推論時の小技から、学習可能な目標へと変えたことにある。コードはすでに公開されているが、データと重みはまだ待つ必要がある。
AIに動画を見せ音声を聞かせる方法を、「全部力任せに読み込む」から「厳選した3割だけを残す」へ
Memories.aiがO-MARCを発表——推論は1.53倍高速化、VRAMは3分の1削減、しかも精度はむしろ少し向上。図解入りの1枚でまとめて解説する。
↓ 1枚で読み終わる · 動くグラフが1つあります
今回取り上げるのは、画面を見ながら音声も聞き取れるAI(論文では「全モーダルモデル」と呼ばれる)だ。画面しか見ないモデルより「耳」が一つ多い。先に音が鳴ってからカメラが向く、というような前後関係もつなげて答えられる。それを阻んでいるのがコストだ。
✘ 1分間の動画1本を処理するのに3.81秒かかり、VRAM(GPU上のデータ置き場)を24.2GB消費する。複数カメラを連続稼働させると持たない
動画はモデルに入る前に、長いトークン列(モデルが読み取る最小単位で、画面の小さな1ブロック、音声の短い1区間がそれぞれ1つとしてカウントされる)に分解される。画面と音声はどちらも特にトークンを消費し、2つの流れが重なると列の長さは単純に倍増する。列が長いほどVRAMと時間のコストがかさむ。これが、この種のモデルが今なお実験室にとどまっている主な理由だ。
Memories.aiのやり方は「賢く捨てる」ことだ。動画と音声から変換された長い入力列のうち、3割だけをモデルに与え、残りはノイズとして捨てる。どの3割を残すかが、この手法のすべてだ。
一律に削る方式だ。すべての画面フレームを一律にダウンサンプリングし、すべての音声を一律にスパース化する。しかし画面には重複した背景が大量にある一方、音声はごく短い一瞬だけが決定的な場合がある。重複した背景と重要な手がかりが一緒に削られ、スコアも落ちてしまう。
まず質問の内容を確認し、それに基づいて残すべき画面フレームと音声区間を選び出す。捨てられた音声は統合の重みに応じて残された重要区間へ組み込まれ、情報はその区間に留まる。
あわせて新しいテスト問題集UGC-AVQAも公開されており、前段の落とし穴に対処するものだ。各候補問題はまず音声トラックを丸ごと削除し、高性能モデルに画面だけを見て解かせる。正解できた問題はすべて除外し、解けなかった問題だけを残す。残った問題は、画面から答えを直接読み取ることが不可能なものだ。
3割しか残さないため、選び間違えれば答えはすぐに失われてしまう。だからこそ、選ぶ順番が肝心になる。
選別は4ステップに分かれる。まず質問に基づいて各画面フレームにスコアを付けて選び、次に選ばれたフレームの中から背景と最もかけ離れた部分を選ぶ。音声側はいくつかの重要区間を残し、近傍の捨てられた分をそこへ統合する。他社との差がつくのは第4ステップで、タイムライン上で画面がどこに密に残り、どこに疎に残っているかを見返し、その疎密に応じて音声の割り当てを再配分する。
概念図(本サイト作成)。画面が多く残った時間帯には聴覚の配分を増やし、画面が疎な時間帯はより強く圧縮する。総額は変わらない。下半は3通りの順序の比較で、画面を先にきれいに選別してから音声配分に使うほうが、生の画面信号をそのまま使うより1.7ポイント高い。生の画面には重複した背景が大量に混ざっており、それを使って重要な音声区間を判断すると、ノイズも一緒に入り込んでしまう。スコアは日常動画テスト(DailyOmni)によるもの。
公式が示すのはパーセンテージだ。1台のマシンが実際にこなす作業量に換算すると、体感としてより分かりやすくなる。1分前後の監視映像クリップが1000本あり、それを一通り処理する場合を想定しよう。
換算根拠:論文の実測値は1本あたり3.81秒 対 2.49秒(1分前後の動画、64フレーム構成)で、これを1000本分に掛けると差は22分となり、ちょうど1.53倍に相当する。VRAMも同様に3分の1削減され、24.2GBから15.8GBへ。80GBのGPU1枚で試算すると(あくまで目安)、これまではカメラ3系統しか収容できなかったところ、今は5系統収容できる計算になる。以上の数値はいずれもMemories.aiと共同研究の大学の著者らが自ら計測した結果であり、論文は5月にarXivへ掲載されたが、本サイトは第三者による再現実験を確認できていない。あわせて公開予定のテスト問題集と学習済みモデルは、7月21日時点でまだ公開されておらず、公開されているのは圧縮部分のコードのみである。
ここで混同しやすい点がある。学習不要のプラグインを単体で使う場合、平均点は42.8で圧縮なしの44.1よりやや低いが、代わりに速度とメモリを3分の1削減できる。45.8というより高いスコアを得るには、続けてもう1ラウンド学習する必要があり、設問3000問と96GB VRAMのGPU4枚が要る。組み込んですぐ使うのと組み込んでさらに精度を上げるのは、別々の話なのだ。
1本を処理する
のにこれだけかかる
比較手法のやり方
音声を導く、大量の
重複背景が混入
