私たちはもっと「野心的」にAIを使うべきだ

四半期レビューをどう変えるかという具体例を通じて、作業を本来の目的に引き上げ、生データに基づく検証を行い、異分野の手法を取り入れる方法を理解する。すべてのステップにおいて、客観的に検証可能な結果を残すことが肝要だ。

著者:Felix Rieseberg10-15 · 9 分
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多くの人は、自分自身の想像力の枠に縛られたままAIを使っている。無難なメールの作成や体裁の修正といった作業にとどまっているのが実情だ。だが、私たちが真に必要としているのは、AIをもっと「野心的」に使いこなすことである。

Claudeの開発に携わるFelix Riesebergは、自らも思いもよらなかったAIの活用例をたびたび目撃してきた。彼は普段主にClaudeを使用しているが、ここで提案する考え方は特定のモデルに限定されるものではない。モデルはある領域では目を見張る能力を発揮する一方で、別の領域では明確な課題を残している。こうした経験を通じて彼は、私たちがAIに求める要求の水準は、もっと野心的であってよいはずだと考えるようになった。

ゴヤの版画『飛び方』(Modo de volar)
原文の挿絵:ゴヤの版画『飛び方』(Modo de volar)。

彼はこの「野心」を、速さ(Speed)、高さ(Altitude)、深さ(Depth)、広さ(Range)という4つの次元に整理している。


同じ一つの業務から、何を変えられるか

同じ「四半期レビュー資料の作成」という業務であっても、AIへの向き合い方は4つの切り口で見直すことができる。

  1. 速さ(Speed):手元の作業を素早く片付ける
    データの集計、コードの記述、スライドの作成など、目的と手順は従来通りのまま、AIを使って完了までの時間を短縮する。これまで報告用テンプレートに手作業で入力していた数値をAIに整理・反映させ、人間は最終結果の突き合わせに専念する。
  2. 高さ(Altitude):視座を引き上げ、本来の目的を見据える
    四半期レビューを作成する真の目的は、事業の課題を把握し、次の意思決定を下すことにある。その目的に立ち返り、直面している最も切迫した3つの意思決定を洗い出させたり、経営上の異変をより早い段階で検知する早期警戒の仕組みを設計させたりする。
  3. 深さ(Depth):一流の専門家のように問題の本質を掘り下げる
    ユーザーの離脱原因を分析する場合なら、生の行動ログを調べさせ、データベースと統計的手法を用いて「オンボーディングの不備」という仮説を検証させる。さらに、未知のデータセットを使って導き出された知見を検証する。データ、分析ツール、重要な仮説を徹底的に追跡し、客観的な根拠に裏打ちされた検証に耐えうる結論へと到達させる。
  4. 広さ(Range):異なる領域の優れたアプローチを取り入れる
    同じレビュー資料に対して、アナリストの手法で数値を精査し、ジャーナリストの手法で情報源を突き止め、空売りファンドのリサーチ手法で反証を探す。それぞれの専門的手法を独立して適用することで、単一の視点では見落としがちな死角を洗い出す。

これら4つの方向性は、個別に用いることも組み合わせることもできる。以下では四半期レビューを例に、具体的にどのような要求を課していくべきかを見ていく。

同一のタスク、3つの変革

「四半期レビューの作成」から考える

Acmeは原文に登場する架空の企業です。以下はタスクの変え方を示す例であり、これらの案で実際に成果が出たという意味ではありません。

速さ · Speed

成果物は従来のレビュー資料のままで、所要時間を短縮する。数字や結論の照合・確認は引き続き必要。

↑

高さ Altitude

実現すべき成果を変える

四半期報告の完成経営課題の早期発見

直近で最も切迫した意思決定を特定し、継続的な早期警戒の仕組みを設計する。成果物は単一の資料から実際に運用可能なプロセスへと拡張される。

検証方法

当時入手可能だった過去データでバックテストを行い、既存プロセスと1四半期並行運用して検証する。

↓

深さ Depth

課題の探求方法を変える

離脱原因の推測ログに立ち返り仮説を検証

データベースと課題に適した統計手法を用い、「オンボーディング不備による離脱」という見立てを検証したうえで、予知シグナルを探索する。

検証方法

未知のデータで新たなシグナルの予測力を検証する。予測が機能しても因果関係の証明とは限らない点に注意する。

↔

広さ Range

異分野の手法を取り入れる

単一の報告視点を踏襲数字の照合・情報源の追跡・反証の探索

アナリスト、ファクトチェック、編集、対抗的調査の手法を個別の作業に割り当てる。1つのチャットセッションでも実行可能。

検証方法

一次記録、証拠の出所、反証への対応を確認する。「専門家役」のAgent同士の合意だけで済ませてはならない。

3つの方向性は個別に適用することも、組み合わせることもできる。すべてのタスクを大規模プロジェクトに仕立て直す必要はない。


速さ:同じ作業をより速くこなす

かつては自ら書いていたコード、作成していた集計表、仕上げていたプレゼン資料をAIに委ねることで時間を節約する。これだけでも十分に価値があり、多くの人にとって最も取り組みやすい段階といえる。

高さ:より大きな目標を託す

上司から四半期報告を求められた際、単にスライド作成をAIに任せて終わらせてはいないだろうか。報告書の本来の目的は、問題を発見し、的確な意思決定を下すことにある。

であれば、要求をさらに引き上げるべきだ。今期最も注力すべき課題を特定させ、直近で下すべき3つの意思決定を整理し、各選択肢のメリット・デメリットを提示させる。さらには、四半期末の報告を待たずに日常業務のなかで異変を察知できる仕組みを設計させ、早期対応につなげる。

当初AIに命じていた作業は、本来達成すべき目標に至る一過程にすぎなかったのだ。

Felix自身のアプローチも同様だ。クラッシュを一件ずつClaudeに修正させる段階から、アプリケーションの安定性を継続的に維持させる役割へとシフトさせた。そのために、クラッシュレポート、アプリのバージョン、Gitのコミット履歴を相互に紐付けた上で、Windows、macOS、Linuxの実機環境を提供し、モデル自身が不具合を再現して修正結果を検証できるようにした。

四半期レビューに話を戻すと、考案した新たな業務プロセスが機能するかどうかも検証が欠かせない。原文では、過去の記録を用いたバックテストを実施した上で、既存のプロセスと新プロセスを1四半期並行して走らせることを推奨している。過去を振り返って検証する際は、当時実際に手に入っていた情報のみを用いることが原則となる。

このように視座を引き上げるアプローチは、目的が明確に定まっている業務に適している。もし自分自身の手で試行錯誤しながら創作する過程そのものに重きを置いているのであれば、何でも無差別に上位の目標へ委譲する必要はない。

実践:四半期レビューにおける3段階のプロンプト(日・英)

以下は原文の事例をもとに整理したプロンプトである。まず関連する経営データを提示し、得られた分析結果に応じて段階的に質問を重ねていく。日本語版と英語版のいずれかを選択して使用できる。

  • 第1ラウンド(初回リクエスト:レビューの下準備段階)
    まずは関連する経営データを提示し、今期に何が起きたのかを把握する。

    日本語版:
    「提示した完全な経営データをもとに、今四半期の事業における主要な変化、それらの要因、そして今後講ずべき具体的なアクションを提示してください。」

    英語版:
    "Based on the raw business data provided, tell me what key changes occurred this quarter, what caused them, and what concrete actions we should take next."

  • 第2ラウンド(追加の問いかけ:意思決定の方向性を議論する段階)
    現状の変化を確認した上で、迅速に決断を下すべき事項を問いかける。

    日本語版:
    「データから把握できたすべての状況に基づき、私たちが直面している最も切迫した3つの意思決定を特定し、それぞれの選択肢について賛否両論の根拠を整理してください。」

    英語版:
    "Based on everything you have learned from the data, identify the three most urgent decisions facing us, and outline potential directions with arguments for and against each."

  • 第3ラウンド(仕組みの高度化:継続的な早期警戒体制の構築)
    従来は人間が丹念にデータを精査して初めて問題が見えていた。ここではAIに対し、異変をいち早く察知して人員や資金の配分を迅速に見直す仕組みが作れないか検討させる。

    日本語版:
    「事業レビューの目的は、経営陣がいち早く潜在リスクを察知し、リソースを適切な方向へ配分できるようにすることです。当社の過去の事業パターンに基づき、『四半期ごとにスライドを作成する』よりも迅速かつ効果的な仕組みを提案してください。当時入手可能だった過去データを用いて、この新プロセスがより早期に警告を発せられたかを検証し、次期に現行プロセスと並行して試験運用する計画を立ててください。」

    英語版:
    "Propose a process that helps leadership detect emerging problems and allocate resources sooner. Compare it with our quarterly presentation using historical records available at the time. Explain whether it would have warned us earlier, then plan a quarter-long trial alongside the existing process."

深さ:一流の専門家のように問題の本質を掘り下げる

四半期レビューで深刻なユーザー離脱(チャーン)が判明した際、「オンボーディングを改善する」「顧客対応を強化する」といった誰でも言えるような陳腐な提言で分析を終わらせてはならない。

生のログを調べさせ、ユーザーがどの段階で離脱したのか、離脱直前にどのような行動を取っていたのか、継続しているユーザーとは何が違うのかを突き止めさせる。必要ならデータベースを照会し、統計分析を実行させる。一定のパターンが見つかったら、分析に用いていない未知のデータで検証し、その知見が本当に信頼に値するか確かめる。

プロンプトに「あなたは優秀な専門家です」と書くのは容易い。だが、真の「深さ」は、専門家が実践する実際の手法に沿ってAIを動かして初めて得られる。

もし社内で「離脱の原因はオンボーディングの不備にある」と長年信じ込まれてきたのなら、その結論を前提に証拠を探させるのではなく、データに基づいてゼロベースで検証させるべきだ。仮に特定の兆候が離脱を予測できると判明しても、それは早期警戒のシグナルとして有用なのであって、それ自体が直接の離脱原因であると断定するには別の客観的根拠を要する。

データをさらに掘り進めることで、新たな知見を獲得させることもできる。過去1年分の完全なログを取り込み、顧客行動のシミュレーションモデルを構築させ、チームがこれまで見落としていた最初期の離脱予知シグナルを探索させる。そして、その予測精度を未知のデータで検証する。この段階の狙いは、人間の専門家も気づいていないかもしれないパターンを見つけることにある。

Webサイトの表示速度改善といったタスクでも、一見非現実的に思えるほど高い目標を設定することで、モデルに徹底的な深掘りを促すことができる。たとえば元の読み込みに10秒かかっており、通常なら5秒への短縮を求めるところを、あえて200ミリ秒という目標を掲げてみる。そうすることで、ボトルネックの徹底的な洗い出しや抜本的な新手法の検討へとモデルを向かわせるのだ。これは探索的なターゲットであり、実際に達成可能かどうかは最終的な実測によって判断される。

Felixがとりわけ強調するのは、モデルの自己評価に依存しない「独立した検証手段」の確保である。とりわけ、モデルがツールを直接実行して即座にフィードバックを得られる環境が望ましい。コードを書くならテストを実行し、予測を立てるなら未知のデータに対する精度を確認する。結果を客観的な検証に晒すことが不可欠だ。

既存の判断を検証し、新たなシグナルを探索する

以下の2段階のリクエストは、原文の離脱分析の事例をもとに整理したものである。第1ラウンドを完了させた上で第2ラウンドへ進む。日本語版と英語版のいずれかを選択して使用できる。

第1ラウンド:社内の既存の判断を検証する

日本語訳:

当社ではこれまで、ユーザー離脱(チャーン)の主な原因はオンボーディングの不備だと考えてきました。
生のユーザーログと照らし合わせてこの見立てを検証し、支持する証拠と矛盾する証拠を挙げてください。

英語版(翻案):

Our current explanation for churn is poor onboarding.
Check that explanation against the original user logs. Report evidence that supports it and evidence that conflicts with it.

第2ラウンド:これまで見落としていた先行シグナルを探す

日本語訳:

過去1年分のログを使って、顧客行動のシミュレーションを構築してください。
まず、既存の記録にあるパターンの変化を再現できるか確認してください。
そのうえで、これまで気づいていなかった、より早期に離脱を予測できるシグナルを探してください。
シミュレーションの構築やシグナルの選定に使っていないデータで、予測が有効かどうかを検証してください。

英語版(翻案):

Build a simulation of customer behavior using the last year of logs.
Check whether it reproduces the recorded patterns.
Look for early churn indicators we have not noticed before.
Evaluate their predictive value on data excluded from building the simulation and selecting the signals.

4つの問いで手元のタスクを再定義する

使用方法: 自身の担当業務に合わせて、まずは対話内で具体的な要件と手元の資料を共有した上で、以下のプロンプト(日本語版または英語版のいずれか)を送信してください。

日本語翻案:

このタスクの専門的な深さを高める支援をしてください。現時点では作業範囲を広げないでください。
着手する前に、まず次の4つの問いに答えてください:
1. 経験豊富な実務家であれば、私が提示していないどのような重要な手順を追加しますか?
2. すでに提供した要約だけでなく、どのような一次記録や元データが必要ですか?
3. この問題には具体的にどのような手法やツールが適しており、それはなぜですか?
4. 結果が信頼できるかどうかを判断するために、どのような独立した証拠や検証を用いますか?
それらの回答を踏まえて、実施すべき作業内容と検証方法を明確にした上で、私のタスク要件を書き直してください。

英語版(翻案):

Help me improve the professional depth of this task without expanding its scope.
Before doing the work, answer four questions:
1. Which important steps would an experienced practitioner add?
2. What original records would they need beyond the summaries already supplied?
3. Which methods and tools fit this problem, and why?
4. What independent evidence or test would establish whether the result is reliable?
Use those answers to revise my task brief, including the work to perform and how to check it.

広さ:他分野の専門的知見を借りる

引き続き四半期報告を例にとろう。アナリストなら数値を照合し、ジャーナリストなら情報源を徹底的に追い、編集者なら論理の飛躍をチェックし、空売り調査員なら反証の発見に全力を注ぐはずだ。

これらのアプローチはいずれも取り入れることができる。AIに数値を精査させ、出所を追跡させ、反証を洗い出させることは、複数のAgentに「専門家」の肩書きを付与して互いに同調し合う様子を眺めるよりもはるかに有益である。

Felixが勧める手法の一つは、「名詞」を「動詞」に置き換えることだ。「スライドを作成する」ではなく、「多忙な経営陣に事業の変遷を理解させ、30分以内に意思決定を下させる」と言い換えてみる。このように具体的な行動へと落とし込むことで、不足している専門的アプローチが自ずと見えてくる。会計処理の精査が必要ならフォレンジック会計の手法を取り入れ、プレゼンテーションの実演が求められるならモーショングラフィックスや音響設計の知見を検討すればよい。

領域横断の難しさは、他分野のツールを借りるという発想自体が湧かない点にある。Felix自身の述懐によれば、かつてゲーム開発に携わっていたにもかかわらず、同僚のAlex AlbertがBlenderを使ってインテリアデザインをレンダリングしているのを目にするまで、Claudeを使って自らのホームページ用3D環境を構築するという発想には至らなかったという。ツール自体はすでに存在していたが、そのような使い方があるとは思いも寄らなかったのである。

なぜ私たちは高い要求をためらってしまうのか

人間は新たなツールを前にしたとき、自らが慣れ親しんだ境界線の内側に閉じこもってしまいがちだ。Felixは心理学の「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」という概念を引き合いに出してこの心理的障壁を説明している。人は通常、自分がよく知る領域でのみ自身の能力を信じることができ、不慣れな分野では高い目標を設定することを恐れてしまう。これに対して彼は3つの助言を提示している。まず「達成できる可能性がある」と信じること、他者がすでにどのように実践しているかを観察すること、そして「試して失敗しても構わない」と許容することだ。ツールが進化している以上、「自分に何ができるか」という認識も更新していくことができる。これは人間側の挑戦する意志の話であり、モデルのアウトプットが正しいかどうかは、どこまでも客観的に検証されなければならない。

これまで述べてきた分析や検証を真に機能させるには、モデルがコンピューターを操作し、ソフトウェアを導入し、MCP(Model Context Protocol)などを介して関連データへアクセスできる環境が必要となる。さらに、作業完了後に実行可能なツールを通じて即座に検証できなければならない。そうでなければ、「より野心的に」というスローガンも、単に誇大なプロンプトを弄ぶだけで終わってしまう。

出典
How to be more ambitious: A tutorial for humans with modelsFelix Rieseberg·2026-10-13·原文を見る
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