Claude は自らを訓練し始めている――Anthropic:本番コードにマージされた行の8割超を Claude が作成

Claude はコード作成、障害対応、実験を担い始めた。Anthropic は社内データをもとに、AI がいつ研究の方向まで決め、再帰的自己改善を実現できるのかを問う。

著者:Anthropic Institute09-28 · 約15分
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Anthropic の本番コードベースに新たにマージされたコード行のうち、すでに8割超を Claude が書いている。Claude は数万件の学習ジョブを停止させた障害を約2時間で突き止め、研究課題を与えられれば実験を自ら設計・実行したこともある。次世代 AI をつくるためのエンジニアリングと研究が、AI に移り始めている。ここで問われるのは、次の Claude を、主に Claude 自身がつくれるのかということだ。

Anthropic は『When AI builds itself』で、この道筋を「再帰的自己改善」と呼ぶ。記事は AI 開発の進め方がたどった5段階から始まり、公開ベンチマークとこれまで非公開だった社内データを使って、Claude がコード作成、障害対応、実験をどう速めているかを示す。そのうえで、研究課題の選定、結果の見極め、後継モデルの設計まで引き受けられるのはいつかを問う。将来の道筋は三つに分かれる。能力の伸びは鈍化しても普及が進む道、人が舵を取り AI が研究を加速し続ける道、そして AI が次の世代を改善する循環を完成させる道だ。研究の進み方が速すぎる場合、各研究所が検証可能な形で足並みをそろえて減速できるのかも、記事の最後の問いとなる。

AI の開発方法はどう変わってきたか

Anthropic は自社の働き方を5段階の道筋として示す。変化の中心は、人が AI に任せる仕事が、短いコード片から、自分で分解して実行できる目標へと広がったことにある。

  1. 2021~2023年:人が開発。 エンジニアがコンピューターでコードと文書を書き、モデル開発の各段階を進める。
  2. 2023~2025年:チャットボットが補助。 人がモデルにコード片を生成させ、エディターにコピーする。モデルは仕事全体を引き受けられない。
  3. 2025~2026年:コーディング Agent。 Agent がファイルを自ら読み書き・修正し、ときにはファイル全体の変更を完了する。
  4. 現在:自律的な Agent。 コードを実行して結果をテストし、数時間に及ぶ仕事を別の Agent に振り分ける。人は主に目標を示し、成果を審査する。
  5. 将来:再帰的自己改善。 ある世代の AI が後継モデルを設計・開発・学習させ、その後継モデルがさらに次の世代を改善できれば、研究開発の完全な循環が成立する。Anthropic は実現時期を示していない。

モデルをつくる仕事には二種類ある。エンジニアリングはコードを書き、学習システムを構築し、障害を調べる。研究は実験を設計し、結果を解釈し、次の方向を選ぶ。仕事の段階も異なる。明確な指示を実行する段階、目標を受け取って方法を自分で探す段階、そして取り組むべき問題そのものを自分で決める段階だ。Claude は手順の実行から方法探しへと進んだ。方向の判断まで引き受けられるかが、自分の後継モデルをつくれるかどうかに関わる。

研究開発の循環・二つの状態を比較

AI はどこまで担い、完全な循環には何が残るのか?

「現在の証拠」と「完全な循環に必要な条件」を切り替え、各段階を選ぶと役割分担を比較できます。後者は成立条件であり、すでに実現したという意味ではありません。

現在の証拠・ステップ1

Anthropic によると、取り組む価値のある問題はなお人が判断する。人が道を誤った場面を意図的に選んだ129時点は、Claude の局所的判断が改善した初期の兆候にすぎない。

主な証拠:AI は AI 開発をどう速めているか

外部評価:数分の仕事から十数時間の仕事へ

評価機関 METR は「タスクの時間幅」を使い、モデルが独力でこなせる仕事の長さを観察する。あるタスク群でモデルの成功率が約50%に達したとき、そのタスクは通常、人間なら何時間かかるかという指標だ。Anthropic が引用する傾向では、その時間幅が倍になる間隔は約7カ月から直近では約4カ月に短縮した。2024年3月の Opus 3 は人間で約4分のソフトウェア作業に相当し、1年後の Sonnet 3.7 は約1時間半、さらに1年後の Opus 4.6 は約12時間となった。METR が測定した Mythos Preview は「少なくとも」16時間で、当時の評価ツールの上限に近づいていた。この傾向が続くなら、年内には人間で数日、翌年には数週間を要するタスクに達する可能性がある、というのが Anthropic の外挿だ。

ほかの評価も急速に難易度を上げざるを得なくなっている。SWE-bench は実際のリポジトリとバグ報告からソフトウェアを修正する課題で、スコアは約2年の間に低い1桁台から飽和に近づいた。CORE-Bench は論文のコードとデータを使って公表済みの結果を再現する課題で、成功率は約15カ月の間に20%から飽和に近づいた。これらは、既定の仕事を AI がより長く、複雑にこなせることを示す。AI 開発そのものを速めているかを見るには、研究所の中での仕事を確かめる必要がある。

社内のエンジニアリング:コード量が増え、障害も独力で調べる

2026年5月時点で、Anthropic の本番コードベースにマージされたコード行のうち、80%超が Claude によるものと見なされている。Claude Code が2025年初めに研究プレビューに入る前、この割合は低い1桁台だった。エンジニア1人当たりが1日にマージするコード行数も2025年から増加し、2026年第1四半期には初期平均の5.8倍、第2四半期はグラフ作成時点で8.0倍となった。エンジニアの仕事は、各行を自分で書くことから、目標を伝え、結果を審査してマージすることへ移っている。

Anthropic 社内のエンジニア1人当たりのマージ済みコード行数。2025年から増え、2026年第2四半期はグラフ作成時点で初期平均の約8倍
Anthropic の社内データ:1人当たりのマージ済みコード行数。第2四半期の棒はグラフ作成時点までのデータであり、8倍はコード行数を指す。

これでコードの産出量が急増した理由は分かるが、人は依然として研究開発の流れにいる。コード行数は生産性の純増と同じではない。別の観察として、2026年3月に調査を受けた研究チームの従業員130人は、Mythos Preview を使うことによる自身の生産性向上を中央値で約4倍と見積もった。自動化によって、以前なら優先順位をつけられなかった仕事もできるようになった。2026年4月、Claude は800件以上の修正を届け、ある種の API エラーを約1000分の1に減らした。担当エンジニアは、人手で対応すれば4年ほどかかると推定している。

コード量の増加に加え、より重要なのは、手順が明示されていない問題を Claude が引き受けられるかどうかだ。Anthropic は社内の Claude Code セッションを難易度別に追跡した。2026年5月までに、最も開放的な種類のタスクで、人による修正なしに完了したと Claude 判定モデルが判断した割合は約76%に達し、半年前より約50ポイント高くなった。従業員が途中で修正・方向転換・引き継ぎをする頻度も下がっている。原文の9月更新グラフでは、開放的なタスクの終点値は約91%となった。同種の社内セッション指標についての後続観察である。

具体例は学習クラスターの障害だ。アップグレード後、数万件の学習ジョブが突然クラッシュした。エンジニアは問題の説明とクラスターへのアクセス権だけを Claude に渡した。Claude は稼働中のジョブと環境設定を一つずつ調べ、見つけにくいデバッグフラグを特定し、障害を再現して修正を確認した。所要時間は約2時間。Anthropic によれば、エンジニアなら通常2~3日かかる。「学習を復旧する」という目標は人が与え、調査の道筋は Claude が自分で見つけた。

Anthropic 社内の Claude Code セッション成功率。開放的なタスクでは2026年春に大きく上昇
5月までの社内セッションの推移。成功したかどうかは Claude モデルが判定した。
9月更新の社内セッション図。開放的なタスクは9月初めまでに約91%に達した
9月更新のグラフ:開放的なタスクは9月初め時点で約91%。自動化セッションは集計から除外している。

コードが動いた後は、同僚が読み、保守できなければならない。Anthropic の従業員の多くは、Claude が書くコードの質は今や人間のものにおおむね並んだと考えるが、チーム内で意見は一致していない。同社はマージ予定のコードのレビューにも Claude を使っている。過去の障害を振り返った結果、当時これらの変更がすべて自動レビューを受けていれば、その後 claude.ai の障害につながったバグの約3分の1は事前に見つかった可能性があると推定する。

社内研究:課題を与えれば、Claude は答えを自分で探れる

障害対応は、目標が明確なときに Claude が自分で道筋を探せることを示す。研究ではさらに、案を考え、実験し、結果に応じて調整を続ける必要がある。Anthropic はモデルをリリースするたび、同じ実験を行う。小さなモデルを学習させるコードを Claude に渡し、正しさの検査を通したうえで、できる限り高速化させる。Claude はコードを変え、実行し、時間を測り、再び改良する。2025年5月の Opus 4 は元のコードを平均約3倍に高速化した。2026年4月の Mythos Preview は約52倍に達した。同じ課題に熟練研究者が4~8時間取り組むと、約4倍だった。この比較が示すのは、目標と合格基準が明確なときに Claude が試行錯誤を繰り返す能力である。52倍は実際の大規模モデルの学習速度の向上幅ではない。

より開放的な実験も Agent に任せ始めている。「弱いモデルは強いモデルを監督できるか」という研究では、2人の研究者が約1週間かけ、弱いモデルの基準値から理想的な上限までの差を約23%埋めた。Claude Agent は累計約800時間稼働し、計算資源に約1万8000ドルを費やして、その差を約97%埋めた。Agent は自分たちで仮説を立て、分担し、試し、情報を交換して改善した。ただし、研究課題と採点基準は人が設定し、成果は本番規模のモデルへ円滑には移らなかった。この事例の要点は、人が解くべき問題を決めれば、AI は解き方を自ら探れるということだ。

本当に任せにくいのは、研究上の判断

先の二つの実験には共通の前提がある。人が先に問題を決めたことだ。さらに任せにくいのは、どの問題に研究する価値があるかを見つけ、良く見える結果が信頼できるかを判断し、ある方向をいつ諦めるべきか見極めることだ。Anthropic はこの能力を研究の「センスと判断力」と呼び、現時点ではなお人の主な強みだとしている。

Claude は局所的な判断では進歩を見せている。Anthropic は社内の研究セッションから、人間が一時的に誤った方向へ進んだ129の時点を選び、その時点までの資料だけをモデルに見せて、次の一手を提案させた。その後の結果を見ることができる Claude 判定モデルは、Opus 4.5 が51%、Mythos Preview が64%の時点でより良い提案をしたと判断した。この設問は人が道を誤った場面を意図的に選んでいる。対照として、人が元から適切に選んでいた別の127時点では、モデルの提案がより良いと判定されたのは約20%にとどまった。研究は課題を選んだ後に自動で進むわけではない。新しい結果が出るたび、次に何を調べ、何を変えるか決める必要がある。Claude はそうした局所的な分岐点で人が回り道を減らす助けになり始めた。この能力がさらに高まれば、研究のセンスも AI が身につけられるかもしれない。

人間の研究者が道を誤った129時点では、Mythos Preview の次の一手の提案が64%でより良いとモデル判定者に評価された
Anthropic が意図的に選んだ研究上の時点。図で比較しているのは局所的な次の一手の提案である。

ここで重要な反論がある。突破口を決めるのが課題選びなら、ほかの仕事を AI がいくら速くこなしても意味がないのではないか。Anthropic の答えは、画期的なアイデアはまれで、日々の進歩の多くは実験を広げ、問題を見つけ、修正して再試行することから生まれる、というものだ。方向を人が決め続けても、AI がこうした反復を短縮すれば、研究者1人が同時に進められる仕事は増える。研究開発はなお加速し得る、と記事が考える理由である。

加速は新たなボトルネックも生む。コードと実験に費やす人の実行時間は減っても、計算資源は必要で、結果を人が判断しなければならない。コードがあまりに速く生成されると人のレビューが追いつかず、実験案が多すぎるとチームは選別して進めきれない。ここでのアムダールの法則は分かりやすい。全体の速度は、同じようには速くならなかった工程で頭打ちになる。 Anthropic によると、社内ではすでにこの二つの混雑が起きている。従業員の体験には別の面もある。約5カ月コードを自分で書いていないという人がいる。以前は同僚にスクリプト実行を頼むことで交流や助け合いが生まれたが、今は Claude がすぐに済ませる。システムに不具合が起きたとき、自分が日々動かしているものをあまり理解していないと気づく人もいる。産出量が増えるほど、人の判断力と理解を保つ必要がある。今後の道筋は、こうしたボトルネックを解消できるか、そして研究方向を最終的に誰が決めるかにも左右される。

この先には三つの道がある

第一の道:能力の伸びが鈍化し、現在の AI が広く普及する。 現在の学習方法では研究上の判断力をこれ以上高めにくくなり、曲線が平らになるかもしれない。その場合は新しい技術的発想が必要だ。あるいはチップ、電力、送電網、相互接続の供給が追いつかない可能性もある。能力が今の水準で止まっても、普及は仕事を変える。Anthropic は Project Glasswing を例に挙げ、Mythos Preview が最初の数週間で1万件超の高リスク・重大な脆弱性を見つけ、サイバー防御のボトルネックは修正作業に移りつつあると述べる。さらに、Agent を使う100人企業が、以前は1000人規模の企業が担った仕事を担える可能性を想定する。Anthropic はこの道の可能性を比較的低く見ているが、社会が適応する時間はより多く得られる。

第二の道:人が方向を決め、AI が研究開発を加速し続ける。 人が課題を選び、成果を検証し、Agent がコード、実験、分析のより多くを実行する。Anthropic は現在の証拠が最もこの道を指していると考え、将来、100人規模の組織が以前の1万人、さらには10万人規模の組織の仕事をこなす可能性を想定する。公共サービスと知識労働に恩恵がある一方、同じ能力が大規模監視や個人を狙った操作にも使われ得る。コードレビュー、資源配分、組織の意思決定は新しい速度の上限となり続ける。

第三の道:AI が次世代の AI を自らつくる。 AI が研究方向や後継システムの設計まで引き受けられるようになれば、モデル開発の速度は計算資源とアルゴリズムの効率により強く左右され、人の役割は主に監督と検証へ移る。自動研究は創薬やロボット工学などにも広がるかもしれない。より強いモデルが新しい安全なアラインメントの方法を見つけ、安全を保証できないときには自ら止まる可能性もある。逆に、人が理解できない世代交代の中で目標からのずれが積み重なり、最終的に制御を失う可能性もある。人間の労働が競争力を失えば、経済をどう組織するかも予測し難い。研究所での開発が高速で循環しても、新薬の検証、送電網の建設、制度の運営、人と人の信頼には、それぞれ固有の時間がかかる。

この三つは条件の異なる未来像であり、順に起こる三段階ではない。下の条件を切り替えると、原文が示す分岐点が分かる。能力の伸びは続くのか。そして研究方向を誰が決めるのか。

原文が示す三つの条件付きシナリオ

条件を変えると、どの未来につながるか?

二つの条件で原文の分岐を見ます。Anthropic の仮説を整理したもので、発生確率を計算するものではありません。

加速が続き、人が課題を選ぶ → シナリオ2:人と AI の協働で効率が向上し続ける。

  1. 01能力が鈍化し、現在の能力が普及エネルギー、チップ、計算資源、研究判断が強い制約となる。それでも現在の AI の普及は仕事を変える。
  2. 02人が方向を決め、AI が実行を加速Anthropic は現在の証拠が最もこの道を示すと考える。審査と資源配分が新たなボトルネックになる。
  3. 03AI が後継システムを自ら設計AI が研究判断と後継設計も身につける必要がある。記事によると、まだ実現していない。

加速が鈍化する場合、誰が課題を選ぶかは図の第一分岐を変えない。現実の結果はエネルギー、物理的な建設、制度の速度にも左右される。

三つの道では、備えに使える時間が異なる。研究開発が加速し続けるなら、安全研究と制度の調整に社会がどう時間を確保するかは、遠い将来の議論ではなく目前の課題になる。

Anthropic が「検証可能な停止」を議論する理由

AI 開発が社会の適応や安全研究より速く進むなら、Anthropic は最先端の研究開発を協調して減速・停止する選択肢を残したいと考える。難しいのは、複数の国にある最先端研究所が同じ条件で行動できるようにすることだ。ひそかに学習を続けている主体を見つけ、各者が確かに合意を守っていると検証しなければならない。学習ジョブは従来の軍備施設より隠しやすく、密かに続ける側が先行する可能性もある。過去の軍備管理では検証のための施設と信頼を築くのに数十年かかったが、AI の進展が同じだけの時間を残すとは限らない。

一つの研究所はすぐに停止できる。しかしほかの開発者が進み続ければ、それは主に誰が先頭に立つかを変え、慎重さに欠ける主体の追い上げを許すかもしれず、社会に議論の時間を増やすとは限らない。そのため Anthropic は協調行動を主張する。ほかの最先端開発者も検証可能な取り決めの下で減速・停止するなら、同社もそうする見込みだという。記事が提案しているのは、その能力を築くことだ。国際的な検証制度がすでにあるわけではない。いつ発動し、どう確認し、いつ再開するのかを、政策担当者、研究者、企業、一般の人々が一緒に議論するよう求めている。

出典
When AI builds itselfMarina Favaro、Jack Clark·原文を見る
編集部注
図表と社内の生産データは Anthropic によるもの。本文では社内観察、実験条件、将来のシナリオを分けて説明する。
↑ 本文ここまで
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